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最終章

第八章

そこは高さ10m、奥行50m、横50mの小さな運動会ができるほどの広さの部屋だった。
扉を開けてまず目に入ったのは、
大破した巨大な培養層とその前に立つ小山のような巨体だった。

「あ、あなたがロバートさん?」

巨体の男が振り返った。

「いかにも、我が名はロバート・ジェニファーソン。
貴様らが、妹の雇った討伐士か・・・。」

(探跡士だっつーの!!)

「なら、家に帰ったらどうですか?ルリさんはとても心配してましたよ。」

「安心しろ。貴様らの雇い主のルリはもう、この世にはいない。」

「!!!」

「どういうことだ!」

「こういうことだ・・・。」
ロバートがすぐ横の機械に触れた。

(プログラムノ起動ヲカクニン。モニターニ5秒後表示サレマス。)

映画館の画面ほどのサイズのモニターは陰式の起動式を表した。
そして、何か複雑なDNAの模式図が映り、2つのDNAが重なっていく。

「まさか、これは!」

「察しがいいな。これは「K.A.I」の遺伝子を人間の遺伝子と掛け合わせる研究の実験段階に作られた映像だ。私は終戦後、軍内部で噂になっていたこの場所を見つけ占拠した。
そして、その研究を完成させた。」

「その研究に実の妹を使ったのか!?」

「その通りだ。」

驚愕の色を浮かべているヴェルの顔を見て
楽しんでいるような言い方を俺は許せなかった。

「実の妹を使ってまで、あなたは何がしたいの!?」
ヴェルの感情も「驚愕」から「憤怒」に落ち着いたようだ。

「決まっているだろう?「力」さ!全てはこの力を得るためだ!」

ロバートが言い終わる前に俺は駆けた。

「貴様ぁぁぁ!!!」

奴の頭部から真っ二つに体を裂く軌道に剣を走らせる。
直後、剣の進行が止まった。
奴は親指と人差し指で渾身の一振りを止めやがった。
奴の怪力がエグゼルごと俺を持ち上げ、そのまま壁に投げつける。

「クソッ、化け物か!」

「すこし、違うな「K.A.I人」だ」

「旨くない冗句だな。」

壁に衝突する直前、慣性を足で吸収。壁を蹴り反作用で再びロバートに突っ込む。

「エーテルパワー」を開放。
「化学具現化系第二階位 「鋼成」(ベトリン)」を発動。
「支配者・エグルザード」のタングステンとタンタルの合金製の刀身が延びる。
ベトリンにより「エーテル」で同じ比率で配合された金属を生成し、刀身を延長した。

俺では延長状態を5分しか保てないが、奴をボコるにはちょうどいい時間だ。
奴は旋風となって突進する俺を避ける動きすら見せずその場に突っ立ている。
約0.6秒後、奴の胸板にエグルザードの刀身を突き立てた。

「私はここだが、貴様は今何を刺したつもりだ?」
「!!!」
俺の着地した場所の1m真横に奴はいた。
奴は俺に触れる直前、
「光学立影系第三階位 「立体影」(イリュデルス)」
で先に避けた上で、そこに自分の立っている映像を写したようだ。
エグゼルなしで陰式を発動させた上、1秒もない超短時間でだ。

「一筋縄では行かないな。おい、ヴェル。いつもの援護を。」
「う、うん。」

ヴェルが上段構えに構えなおし、
俺は下段構えに構えなおす。

「貴様を今から、人間ではなく「K.A.I」とみなし討伐する!」

「面白い。その「K.A.I」に討伐される討伐士が拝めるとはな。」

「減らず口もそこまでよ!」

「威勢のいい女だな。」

二条の疾風となって俺は左、ヴェルは右から暫撃を放つ。
やはり、指二本で左右同時に止められる。
ここまでは予想通り、
ヴェルが「エーテル」を開放。
「救済者・エルル」の先端に銀白色の光が集まっていく。
ロバートも陰術を紡ぎ対抗を試みる。
が、俺がそうさせない。
陽術で自らの筋肉繊維に「エーテルパワー」を集中。
奴の動きを止めるとともに空中で「腕十字固め」の体制に入り、背筋に力を込める。
奴の腕は、意図も容易く砕けた。
大音量の絶叫とともに骨の破砕音が部屋に響く。

「クソッ!私の研究にミスがあったのか!?」

ヴェルが組成式を組み上げ、エグゼルの引き金を引く。
銀白色がロバートを包んでいく。やがて、ロバートの周囲1mを半透明の白が覆った。
特異結界系 第七階位 「反陰断結界(ヴァリル・ジ・ガルド)」が発動された。
この結界により、術対象者の術は結界内で全て弾かれ術の発動者に跳ね返る。
さらに、この効果に加え相手は結界の外に出ることができなくなる。

「ヴェル離れろ!この阿呆に一発かます!」

「化学放射系第五階位 重爆裂反応(バニングスト)」の組成式を組み上げる。
エグゼルを剣の柄から、銃のグリップに持ち替え引き金を引き
眩い光と胸の中で地震が起きたような振動が部屋を揺らす。
大音量の爆発音と閃光弾のような光が収まったとき、ロバートは跡形もなく。
というより、そこに彼がいた痕跡すら残さずに消し飛んでいた。




(ズガガガガガ・・・)
さっきの振動で山に亀裂が走ったようだ。
地鳴りと共に、部屋の崩壊が始まる。

「く、崩れルー!早く逃げなきゃ!」
「い、いや。ちょ、ちょっと逃げなくても・・・」
「何言ってんの!?いいから逃げるの!」
ヴェルが俺の腕を引っ張って、出口に向かおうとする。
(結界で防げばいいのに・・・。)
仕方なくヴェルについていった。
さっきの迷路は逆の方向から見ると、出口は右に三回曲がったところにあった。


行きであんなに迷った道だとは思えなかった。



「ふぅ~。危なかった~。
さっきさぁ、目の前に大岩が降ってきてものすっごいびっくりしちゃったよ。
もう少しで、瓦礫の下敷きだったねぇ。」

『結界は思いつかなかったのかよ』という言葉を飲み込んだ。

「ああ、危なかったな。」

「まるで人事みたいに言うよね、ハルカって!」

「まぁ・・いいじゃ・・な・か・・。」

全身から力が抜けてその場に俺は倒れこんでしまった。

「ハルカ!ねぇ、ハルカってば!ハルカぁ!起きてよぉ一緒に帰ろうって言ったじゃない・・・・。」



その後、頬に熱いものを感じて俺は闇に落ちた・・・・。









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